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歌舞伎よもやま話

【歌舞伎よもやま話】第一話「顔」 / 語り:大城戸建雄

こんにちは。手ぬぐい専門店 麻布十番麻の葉です。

歌舞伎にまつわるよもやま話をお届けします。語りは大城戸建雄氏。麻の葉の歌舞伎手ぬぐいの原画を手掛け、歌舞伎に精通している大城戸氏による『歌舞伎よもやま話』をご堪能ください。

歌舞伎よもやま話「顔」

「役者顔」という言葉を耳にしなくなって久しい。もともと、役者にふさわしい顔という一つのパターンがあったわけではないだろうが、目鼻立ちがしっかりしていて輪郭が大きく、舞台で映える顔という意味で、いわゆる二枚目とは違う趣のある言葉だ。但し、この言葉は広辞苑などの辞書にはない。ということは、限られた範囲で使われていたのだろう。
実際、昭和歌舞伎までの役者のスタイルは六等身ぐらいで、顔の大きさが目立っていた。だからこそ、顔が動くたびに、見得を切るたびに、観客を唸らせた。歌舞伎の大部屋から出て、時代劇の大御所となってスクリーンを賑わせた俳優たちもそうであった。
一方で、一種古風な趣があり、いかにも歌舞伎芝居という江戸の情緒を醸し出していた顔がある。それは瓜実顔といわれる面長な、写楽の大首絵に出てくる顔である。昭和時代に活躍した三代目実川延若、 五代目嵐璃珏、三代目尾上多賀之丞、七代目中村芝翫など、その古風な面影は実に江戸の名残りを感じさせてくれたものだった。
岸田劉生という画家は、歌舞伎を愛し、その美的な要素を巧みに感じ取り、歌舞伎を主題にした絵画や名著「歌舞伎美論」を残している。彼の描いた「鯰坊主」などは、私たちが観る、現代歌舞伎では味わえない空気が漂っている。彼は、『でろり』つまり、どぎつさや生々しさの中に隠された美を取り上げたが、歌舞伎にはそんな特質があることを見出している。残念ながら今の歌舞伎にはその特質がみられない。
現在の、若手花形役者たちは、八頭身のイケメンぞろいで、顔が小さく、役者顔にはほど遠い。だから、花道の七三で見得を切ってもスマートすぎる。つまり、江戸情緒をにじみ出せる役者が少ない。古典歌舞伎より新作歌舞伎や、他のジャンルの役者とのコラボレーションをはじめ、新奇な演出や現代的な舞台改革は決して悪くはないが、ユネスコ無形文化遺産として登録されている歌舞伎が、単に脚本や型、音楽だけの伝承だけでなく、古典歌舞伎独特の情緒を醸し出せる伝統の継承を、平成歌舞伎に求めていきたいと思うのである。

手ぬぐい「歌舞伎十八番・矢の根」

参考商品:手ぬぐい「歌舞伎十ハ番・矢の根」

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