【第十一話】舞台稽古 / 語り:大城戸建雄

「舞台稽古(ぶたいげいこ)」

 歌舞伎の舞台稽古を2度ばかり、一般公開されたものを観た。東北の震災と熊本の震災、その義援金チャリティとして、大阪松竹座の「関西・歌舞伎を愛する会」恒例の7月歌舞伎で片岡仁左衛門丈が提案して実現したものだ。

 まず、1階席はスタッフや演出家を始め役者の関係者などで一般は立ち入り禁止。2階席以上が全席自由席(均一料金)で開放されたのである。入場料金は全て寄付金として被災地に送金されるという。
そもそも舞台稽古は一般に公開するものではない。近年は、テレビなどの映像で襲名前の役者のドキュメントが放映されたりする時、日常の稽古や初日前の総稽古の様子などが映し出されることはあるが、大道具から全てを配して、出演役者さんが皆さん顔合わせする舞台稽古の公開は滅多にない。
 まずもって仁左衛門丈から、「真剣な舞台稽古だから、客席に人がいないというのが原則です。ですから拍手やおしゃべり、掛け声など一切せずに、ひたすら無言で静かに見てもらいたい」という要請があり、客席もその真剣な空気を読み取って、場内が静まった頃合いから稽古が始まった。 舞台上の浴衣姿の役者たちは、自分の持ち場や役どころを思い思いに描き、舞台の持ち場持ち場でさらえていくことになるから、それぞれが上手、下手、中央奥といった場所で役作りを同時進行するという不思議な光景であった。 大道具も、木戸の位置や建物の立て付けの具合など、トンカチで叩いて調整している。なんとも騒々しい舞台上でもある。
その後主役が演じる稽古場面となるが、基本的に座頭が自分の立つ位置を決めて、脇役に「こう絡んできてくれ」とか、「そこの場所では、こっちを向いて」とか注文を出す。そして一通りの稽古が終えると、脇役の幹部俳優をそばに呼んで、打ち合わせをする。同等の俳優には笑顔交じりにうなずき合っているかと思うと、そこそこの俳優には厳しい顔になり、だめ押しを出している。舞台を作り上げていくバランスの巧妙さが、遠くからでも伺えるのだ。その意味で座頭は、その劇の演出家であり振付師であり、主役なのである。

 演出家という肩書を持つ人がいるが、私が拝見した時には1階客席から舞台稽古を見ながら全体のバランスの調和をはかるための指示をしているようであった。出てくるのが早いとか、後方のその他大勢の立つ位置、移動の際の動きの流れの整理とか、道具の使い方、大道具の場所とかに気配りをしている。座頭から、「今の動きと絡みでよかったか」と聞かれた時には意見を出しているが、細かな役者さんの演技や表現スキルにはあまり口出ししていないようだった。
 新作とは違い伝統歌舞伎は主役が自分の立ち位置を定め、その役どころが引き立ち、目立つ様に演出を固めていく。そして一座のチームワークが芝居の空気を変えていくのが手に取るように理解できた。そういう流れの稽古の中で、座頭の役者自身、自分の芸のおとし所を探り、役を作り上げていくのであろう。後日、本舞台を見た時には、稽古の時の演出からさらに練り上げられた変化を感じた。
 歌舞伎の舞台稽古も様々な模様があって芝居を作り上げていく過程を知ることができ、芝居を見るのとはまた違った魅力がある。チャリティでもいい、もっと一般に総稽古を公開してほしいものだ。

語り:大城戸建雄

 

 

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大道具

絵てぬぐい 大道具    [雁千穂  原画]

床山

絵てぬぐい 床山    [雁千穂  原画]

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